事例紹介

事業者情報

株式会社デジタルハーツプラス(INNOVA初台)

所在地:東京都渋谷区代々木4-31-6 西新宿松屋ビル7階
業種:サイバーセキュリティ事業
従業員数:6人(2022年1月19日時点)
https://www.digitalhearts-plus.co.jp/

圧倒的人材不足のサイバーセキュリティ業界

プログラムのミスや欠陥を発見し、報告を行う「デバッグ作業」を得意とする株式会社デジタルハーツプラスは令和3年10月、サイバーセキュリティ事業に特化した事業所「INNOVA初台」を開所しました。

サイバーセキュリティ事業とは、コンピューターウィルスや不正アクセスなどのデジタル社会における脅威からユーザーを守るための対策を講じる事業を指します。

 

「サイバーセキュリティと聞くと、プログラムが組めてシステム開発もできるようなIT業界の頂点に立つ人が、持てる知識を総動員して取り組むようなイメージがあるかと思います。でも社会的にデジタルが標準化された今、すべてに精通した人だけがこれを行っているようでは到底間に合いません」と、同社代表の畑田康二郎さんは警鐘を鳴らします。単に古いシステムを使い続けているがために狙われているケースもあり「大抵の犯罪は原因さえ特定できればすぐ対処できる。検証さえすればすぐに取り除ける脅威ですが、その人材が不足しています」(畑田さん)

株式会社デジタルハーツプラス 代表取締役社長 畑田康二郎さん

突出した能力を採用する事業所に

同社が属するデジタルハーツグループでは、「SAVE the DIGITAL WORLD」をミッションに、日本のソフトウェア開発を第三者の視点で検証する事業を行ってきました。

「あらゆるものがインターネットにつながるIoT時代。プログラムの不具合を見つけ出すために必要なのは、突飛な発想力やとことん没頭し原因を突き詰めていける集中力。でもこういった特性のある方は、あらゆる業務に対して平均点以上を求める日本の多くの企業では、雇用されにくいのが現状です」と畑田さんは言います。

 

デジタルハーツグループは2019(令和元)年に特例子会社を設立し、障害者手帳を所持している方々を積極採用してきました。
「しかし、発達障害の特性を有する方の中には手帳の所持を選択しないグレーゾーンの方も多数存在しているほか、就労困難性は人によって様々であり、障害者手帳の有無に関わらず優秀な人材を発掘すべき」と感じた畑田さん。そこで、障害の有無にかかわらず、様々な就労困難性に応じて個別に最適化した人材を雇用することを支援するソーシャルファームの制度を活用。サイバーセキュリティ事業に特化した事業所を誕生させたのです。

ひときわ目立つ80インチのモニター。オンラインイベントを行うこともあります

就労支援機関と連携し、人材にリーチする

就労に困難を抱える方々を採用するために、同社は若者の就労支援を行う「認定NPO法人 育て上げネット」と連携し、サイバーセキュリティの基礎を学べるeラーニング研修を提供しました。この研修に挑戦した人の中から、同社の業務に興味がある人は、試験と面接ののち、インターンに参加します。

 

ある日「応募したいが、面接が苦手で、人と対面して話をすることができない」という相談がありました。そこで、同社はチャットによる面接を行い、その後インターンに招きました。すると、この方はインターン中に他のインターン生から一目置かれるほどの適性を見せ、採用に至りました。

 

「履歴書に空白があり社会人経験も乏しく、書類選考や面接で弾かれてしまう、一般の企業では採用に結びつかないタイプの方は、就労の機会を得ることが出来ない負のスパイラルに陥ってしまいがちです。チャンスがないために就労できないでいる方は社会にまだまだいるのではないでしょうか」(畑田さん)

 

「普段は普通にコミュニケーションできる。でも『採用面接』などの特定のシチュエーションでは緊張してしまう。そうした方は、メールやチャットなどの他の手段できちんとやり取りができれば、面接で上手く話せなくても構わないんです。採用は形式的なところよりも人物本位で一緒に仕事をやっていけるかどうかを重視しています」と、現場でスタッフの管理をしているINNOVA初台所長の高橋潤さんも言います。

「上司と構えず、何かあったらいつでも話して」とフラットな関係性であるよう意識している、という高橋さん

サイバーセキュリティ事業は社会と雇用を守る

「採用も教育も、従来からある決まりきったやり方で進めるのは意味がないと思っています。当社のメンバーもそうですが、真面目であるがゆえに自分の特性とマッチしない働き方や業務であっても『会社に迷惑がかかるから』と無理をしてしまうこともあります。しかし、大切なことは各自がどうやったら自分の特性や能力を活かして活躍できるかという点であり、そこに重きを置き、日々マネジメントしています」(高橋さん)

 

「我慢し続けて大きなダメージを受けるより、早めに対処する方がスタッフにとっても会社にとっても結果はハッピー。むしろ対処方法のノウハウが蓄積されることで、もっと多くの雇用に結びつきます」と語る畑田さんはさらに続けます。

 

「『うちはまだ、サイバーセキュリティ対策なんて不要』という企業が多いのですが、コーポレートサイトのセキュリティチェックだけでも将来のリスク軽減につながります。こうした小規模な仕事を積み上げていけば、就労に困難を抱える方の雇用をもっと増やすことができ、セキュリティに詳しい人材が増えて安全なデジタル社会が築けます。サイバーセキュリティの発注が増えることは、社会にも好影響をもたらすと思うのです」

フリーアドレスですが、パーテーションで区切られて集中できるこのデスクが人気だそう

働きたいのに働けない辛さを抱える方へ

立ち上げ時に入社したスタッフから、ソーシャルファームの意義についてのお話が聞けました。

 

「かつて鬱病を患っていましたが、講座を受けサイバーセキュリティに興味が湧きました。Webサイトの脆弱性のチェックはパズルを解くような面白さを感じます。鬱に苦しんでいた自分にも、こうして楽しめる仕事があります。同じ悩みを抱える方がいたら『私の場合、自分に合う生き方を探したら、少しずつ楽になった』と伝えたいです」

と、ご自身の経験を語ってくれたのは楠本圭さん。

 

同期の木村篤史さんは「外部からの刺激に敏感で、とても疲れやすい」という特性を抱えています。

「働きたいのに働けない時期が長く『自分には生きている価値がない』と思い詰めたことがありました。それでも、サポートを受けながら職業訓練と就職活動を続けて、この場所に出会いました。どんな生きづらさを抱える人もあきらめないでいれば、自分に合った場所に出会えるはずです」

 

木村さんは多くの人に支えられてきたという感謝から「これからは社会や誰かの役に立ちたい、恩返しをしたい」という決意も話してくれました。

楠本さんは現在、グループ会社である株式会社デジタルハーツが共催する「パスワードハッカー選手権」というイベントの企画補佐を担当しています。

 

「まだまだわからないことばかりですが、ひとつずつ自分のできることを増やしています」と木村さん

長く「健康に働ける」職場環境をみんなで構築する

IT業界は、残業の多さなどが社会問題にもなっています。当初、その点を危惧して残業はしなくてよいと打ち出した同社。「スタッフに無理はさせず、クライアント側の納期に余裕をもたせる」というスタンスで進めていたところ「時には残業もできないと仕事を時間内に無理して終わらせようとハードになったり、中途半端に止めなくてはならず、逆に働きにくい」と抗議される一幕もあり、柔軟な対応の必要性に気づいたとか。そんなことも言い合えるほど、風通しのいい社風です。最新技術を活用した事業所のINNOVA初台は、オフィス環境にも配慮があります。そのこだわりのひとつは、時間の経過に合わせて色調が変わる照明。朝は仕事に集中できるようさわやかな明るい白さで、夕方はそろそろ仕事を終えて帰宅する時間と伝わるように穏やかな暖色系の色になり、自然と仕事のリズムが感じられ、作業にメリハリが生まれます。事業所内で業務を行う座席はフリーアドレス。その時の気分で集中できる環境が選べ、横になって休める休憩室も用意されています。

 

「休憩も自由に取れ、在宅勤務もOK。体調を崩さないよう、仕事のやり方をコントロールできています」(木村さん)
「一緒に働く仲間も穏やかな方ばかりで、心地よい職場です」(楠本さん)

畑田社長(右から2人目)が手にするのは、ソーシャルファーム認証事業所の証として東京都から贈られた盾

1日の照明の変化の様子。左上が朝で時計回りに夕方へ、自動的に色調が変わります

(令和4年1月取材)