事例紹介

事業者情報
美紘建興株式会社
所在地:〒194-0015 東京都町田市金森東2-10-12
業種:型枠工事業 とび・土工工事業 土木工事業
従業員数:13人
https://www.mihirokenkou-inc.com/
父親の影響で建設の現場へ 仲間が安心して働ける環境を目指し独立を決意
社長の平中洋行(たいなか ひろゆき)さんは鳶職をしていたお父様の影響で、10代で建設現場の世界に入りました。当初は鳶として足場の技術を身につけ、その後コンクリート構造物を作る際には欠かせない型枠大工として経験を積みました。擁壁工事、護岸工事、耐震補強工事、地下通路やトンネル工事、バイパスや高速道路建設工事など様々な現場に携わり、土木系型枠大工としての腕を磨くとともに活躍の場を広げていきました。
職人として約20年の経験を活かし個人事業主として独立。職人へのより充実した社会保障の必要性を感じ2年半後に法人化を図りました。
これまで大型公共工事から民間工事まで、さまざまな仕事を受注しました。事業のメインはコンクリート型枠工事ですが、足場の組立・解体や土木工事などを含め請け負う範囲を広げることで、一つの現場に同社がなるべく長く携われるよう工夫しています。

偶然見かけた1枚のポスター 就労支援機関から貴重な人材を
協力雇用主となる以前、創業後1年ほど経った頃にある若い社員を迎えましたが、残念ながら長くは続かず、いくつかのトラブルを引き起こした末に退社となりました。親御さんと話をした際に、少年院に入った経験があることを知りました。
またその後も、服役を終えた方を迎え入れました。当初の彼は気力に満ちとても頑張っていました。しかし、だんだんと生活が荒れていき、休みがちになり、数年後に逃げるようにいなくなってしまいました。
この彼の在職中にハローワークで協力雇用主のポスターを見かけ、受入れ企業となりました。彼の変化を目の当たりにした平中社長は「これまでの自分の対応では何かが足りないのではないか」と考え、より一人ひとりに気を配る姿勢を持つようになったといいます。
これらの経験から、一般の社員と分け隔てなく接することを心がけつつ配慮するべきところはより配慮することで、以前に比べれば良い関係を築くことができるようになりました。その後もさまざまな人生を経た方々を受け入れ、雇う側としても対応の経験を広げることができ、就労支援機関からの人材を受け入れやすい環境が整うようになりました。

雇う側の受け入れ方次第で社員の動きが変わる
就労に困難を抱える方を迎え入れるようになり、平中社長がもっとも実感したのは、見かけに惑わされずに相手を見ることが大切だということ。威勢よく見えていても弱々しく見えていても、内面も同じとは限りません。
彼らの口からは「どうせ自分なんて・・」「自分には無理・・」といった言葉がよく出ます。打たれ弱く傷付きやすい、ネガティブ思考や自己肯定感が低いといったことも多いようです。しかし、そういう面を理解し受け入れた上でそれぞれの良い面を見出し、得意なことを伸ばし、自分に自信が持てるようにすることで仕事に対する姿勢が変わっていきます。一人ひとりの潜在的な能力をいかに引き出してあげられるかが重要になります。
「彼らと一緒に現場に出ること、そして会話を重ねることで少しでも理解を深め、変化を感じ取れるようにし、彼らを多面的に支えられるよう心がけています」と平中社長。
また、月に一度の給与支払日には、必ず一人ひとりと会話をし、悩み事、相談事などを社長から問いかけることでコミュニケーションをとりやすくしているそうです。




スキルアップだけでなく 生活・気持ちの安定が大切
就労支援機関を経て入社する社員は「住まいがない」「住まいが借りにくい」という場合が多く、同社では社員寮を準備しています。住む場所を確保することで生活の基盤をしっかりさせ、毎日の暮らしが安定することで仕事にも集中できます。
平中社長が採用面接時によく口にする言葉があります。
「産まれたばかりの赤ちゃんは何も出来ないよね。ミルクを飲ませてもらい、離乳食を食べさせてもらう。そして手づかみ食べが始まり、スプーンやフォークを持つようになり、何年もかけてお箸を使えるようになる。少しずつ成長していく。仕事も一緒。一つ一つステップを踏んだうえで、次の段階に行こう」
最初から出来る人はいません。たとえ今は出来ないことがあってもいい。焦らず腐らず自分のペースで一緒に頑張っていこうというメッセージです。
社員のスキルアップに積極的で、社員のさまざまな資格へのチャレンジにも協力的です。また、その社員にとってより良い選択だと思えば転職などの相談にものり、人生そのもののステップアップも応援しようと考えています。

人に認められ、成長を実感することが、さらに仕事への意欲につながる
山下(やました)さん
入社2年になる山下さんは、現場職長という立場です。
「建設業での経験は長いです。職長は周りにさまざまな指示出しをする役割で、やって・見せて・実行させることが大切になります。自身の持ち場以外にも、周囲を動かさなければいけない難しさを実感しています。建設の現場では、『段取り八分(ぶ)』の言葉があり、仕事に取りかかる前の準備がとても大切です。数十種類にも及ぶ資材、工具類の仕分け・準備には神経を使います」
桑澤(くわざわ)さん
副職長の桑澤さんは、入社2年8カ月を迎えました。
「当初は現場での整理整頓もできず苦労しましたが、今ではそうした性格も徐々に変化し、自身の成長も感じられるようになりました。新人を教える立場になってきたので、いかにその人を活かすかを考える毎日です」
平中社長によれば、「桑澤さんは、ちょっとした作業の注意点を説明する際などでも、一つの見方だけではなく違った視点でも指摘してくれるありがたい存在です」
宮地(みやち)さん
入社10カ月と比較的、日が浅いながらも副職長を務める宮地さん。
物静かな性格ですが、周囲に目配りでき、気が利いた行動が得意です。
「最近は、型枠の中でも難しい曲面部分の技術を磨く日々です。世の中、部下に指示だけ出して、自分は何もしないという社長もいますが、平中社長は自ら率先して負担のかかる作業、汚れ作業を実践してくれる点が素晴らしいです。これまで、いろいろな会社で私自身を認めてもらえない経験をしただけに、同社で働けるありがたみを実感しています」

●エピソード
従業員の意識向上のために!「安全講習」
現場では講習や研修をする機会がなかなか取れないため、休工日に全社員を対象にした安全講習を実施。こうした講習の場を設けている会社は少ないようですが、きちんとした安全意識を養うことは職人のスキル向上にもつながります。「ごく当たり前に思えることでも、改めて意識しなおすことで、トラブル、ケガ、事故を減らすことができ、社員の安全対策、また当社の信用の維持、向上に役立ちます」と平中社長。
●主な業務
・型枠の組立、解体 ・コンクリート打設
・足場、型枠支保工の組立、解体
・溶接、重機OP 等 ・土木工事全般
(令和3年12月取材)
