事例紹介
事業者情報
合同会社ライフベース(ライフベース八丈島事業所)
所在地:東京都八丈島八丈町三根1239
業種:社員食堂の調理代行・メニュー立案、回転焼き店の運営など
従業員数:14名
社員食堂と回転焼き店の運営をし、就労困難者をサポート
八丈島で暮らす障がいのある方々の「生活の基盤」となる場所を立ち上げることを目的に、2020年に設立された合同会社ライフベース。「全員が胸を張って生きられる場所を」をモットーに建設会社の社員食堂の業務請負や回転焼き店の運営を行いながら、障がい者の雇用促進を図っています。
社員食堂の業務請負は同社代表の高橋さんが、建設会社の責任者の方に提案したところからスタート。現在は清掃からメニュー立案、食材の補充、調理まで幅広く担当しています。和洋中のメニューバリエーションが豊富な上、すべて手づくりで提供。また地元の食材をふんだんに使った料理は大好評!同社の従業員・アケミさんの業務は最初、清掃業務がメインでしたが、プロの調理師の指導を受けて料理の腕もメキメキと上達していることから、今後は調理業務も担当することになりました。
回転焼き店は、さらなる雇用促進のために2022年2月に販売を開始。「多くの常連さんに支えられていて、なんと中には毎日買いに来てくださる方も!最近は職業訓練の場として、聴覚障害のある高校生の受け入れも始めたんですよ」と高橋さんは笑顔で教えてくれました。
みんなが無理することなく働ける場所をつくってあげたい
ソーシャルファームを始めようとしたきっかけを、代表の高橋さんにお伺いしました。
「社員食堂で働いているアケミのことは彼女が小さな頃から知っていて、成長を近くで見守っていました。しかし、心の病にかかってしまい“自分は頑張りたいのにできない”状態になってしまった。彼女のようにどんな状況になっても、自分のペースを崩さずに働ける場所をつくりたいと考えていたときに、偶然、新聞でソーシャルファームに関する記事を発見。これだ!と思ったんです」。
ソーシャルファームの立ち上げや運営には、地元地域の方や昔の職場の仲間たちが多大な協力をしてくれているそう。「ライフベースの取り組みに共感してくれた知人が、ビーチに近い人気の土地を回転焼きの店舗として貸してくれています。ドライブスルーで買いに来てくれたお客さんが一目で営業中と分かるようにと、「営業中」の旗もプレゼントしてくれました。さらにホテルのオーナーが、“もう1つの目玉になれば”とソフトクリームの機械を貸してくれた上に、材料の仕入れも手伝ってくれています」と高橋さんは嬉しそうに語ってくれました。
“できるだろう”という思い込みで判断するのは危険
バスガイド時代に毎日握っていたマイクを今はフライパンに持ち替え、ソーシャルファームの運営に情熱を注いでいる高橋さん。日々取り組んでいる、就労困難者を雇用する上での工夫を教えてもらいました。
「障がいがあるのが心でも身体でも、無理をさせないことです。体調やメンタルには波があります。相手が“できるだろう”と思い込むのではなく、きちんと一人ひとりの顔を見て状況を判断するために、社員食堂と回転焼きの両方に毎日足を運んでいます。ちょっとでも辛そうな雰囲気を感じ取ったらすぐに休めるように、社員食堂の横にはベッド付きの休憩室を用意しています。回転焼きのほうも、“疲れちゃうから、お客さんがいないときは座って好きな音楽でも聴いてて!”と口酸っぱく言っているんですよ」。
プロとして信頼され、自信をもって働ける場所に
現在、同社で雇用している方は長時間勤務が難しい人がほとんど。だからこそ高橋さんは、ある大きな決断を下しました。
「たとえば回転焼き店の従業員たちは、回転焼きの講習で教わったレシピを自発的に研究し、島特有の気温や湿度の影響を考慮しながら、日々生地に入れる水分量を調整し、ベストの状態で回転焼きを提供できる環境をつくってくれました。また、社員食堂で提供するメニューもそこで働く従業員全員で考案しています。障がいのため、働ける時間は限られていますが、私からみたら全員が“プロ”。だからこそ、時給を1200円にしています」と語る高橋さんの夢は、さらに大きく広がる。
「もっと多くの就労困難者の方を受け入れられように働く場所を工夫していきたいと考えています。今はまだここで働くことを希望している方、全員を受け入れることができず、入社の順番待ちをしてもらっている方も。一人ひとりが異なる個性を持っているので簡単ではありませんが、みんなが明るく笑顔で働ける場所を増やしていきたいです」
みんながイキイキと働ける場所を増やすのが高橋さんの夢。職業訓練の受け入れ先としても期待されている。
障がいがあっても、ここでなら一生働くことができる!
取材当日は、聴覚障害のある高校生が職業訓練の一環として回転焼き店の仕事に参加。生まれて初めて作った回転焼きを、様子が心配で見に来た親御さんに手渡すシーンを目撃しました。「生徒にとって仕事は初めての体験。働く楽しさややりがいを実感する中で自分の得意なことを見つけてほしいですし、このような機会をくださったライフベースさんにはとても感謝しています」と同行の先生。
豊倉大輔さんは、今まで社員食堂で働いていましたが、今年の2月から週に1回、回転焼き店でも働くようになりました。
生地を引っかけくっつける工程は難易度が高いそうですが、大輔さんは慣れた手つきで回転焼きをどんどん焼いていきます。「“美味しい!”ってお客様から言って頂けるのが嬉しい」と大輔さん。
回転焼き店で働く笹本和子さん(80歳)が感謝しているのは、一生働ける場所をつくってくれたこと。「私は足が悪いのですが、死ぬまで働きたいという想いがあり、以前はクリーニング店に勤めていました。しかし、オーナーがご病気になり閉店に。そんなとき縁があってこちらでお世話になることになりました。お店に来られなかったときに“回転焼きの夢を見た”とまで言ってくれる常連さんとのやりとりは楽しいですし、上手に焼けたときの達成感も感じられる。この年齢で新たな生きがいをくれた高橋さんには本当に感謝!人生の師匠です」
出来たて・焼きたてをお出しすることで、『真心』を伝えたい
社員食堂の料理やお弁当には冷凍食品を一切使用せず、すべて手づくり。一日三食の配膳では、作り置きではなく出来立てにこだわっている。回転焼きにはテレビでも紹介されたことのある、小豆本来の味わいがしっかりと感じられる上品な甘みの餡を使用しているそう。「手間はかかりますが作り置きではなく出来たて・焼きたてをお出しすることで、私たちの“真心”を伝えたいと考えています。今、常連さんや協力してくださる方が増えているのは、その結果なのかもしれません。そしてそれが、私たちが運営するソーシャルファームの新しい未来を切り開く扉を開いてくれると信じています」。高橋さんはとびきりの明るい笑顔で、島内に新しい風を吹き込んでいました。
(令和4年6月取材)