事例紹介
事業者情報
株式会社ベネッセソシアス(大田センター)
所在地:東京都大田区西六郷4-7-9
業種:洗濯業
従業員数:10人
https://www.benesse-socius.co.jp/service.html/
介護施設の膨大な洗濯物を一手に引き受ける
「よく生きる」という企業理念の下、教育から介護まで幅広い領域で事業を展開するベネッセグループ。同グループに属する株式会社ベネッセソシアスでは、介護施設の入居者が着用・使用した衣類やタオルの洗濯代行を行っています。
ベネッセソシアス 大田センターでは、現在8施設の洗濯物を受け入れています。毎朝、運び込まれる膨大な洗濯物のチェックから1日の業務はスタートです。
「当社はクリーニング業とは異なるため、一部扱えない素材があります。1点ずつタグを見て確認します」と話すのは、取締役事業部長の内藤進さん。
個人情報保護の観点から衣類に記名はせず、代わりに1人分ずつナンバーの振られた洗濯ネットにまとめられてセンターに到着します。それらをいったん、作業台に広げ、素材の確認とティッシュなど、洗ってはいけないものが入っていないかを入念にチェックします。時には補聴器や入れ歯が紛れ込んでいることもあるとか。チェックを終えると再び衣類をネットに戻し、洗濯、乾燥と作業は進みます。
グループ内の介護施設から業務を切り出した
ベネッセグループには、オフィス業務のサポートを担う特例子会社がすでにありました。
「多くの方が面接に見えますが、業務内容などから採用となるのはごくわずか。障害のある方をもっと多く雇用する方法はないかと検討していました」
そこで着目したのが、ベネッセグループで運営する介護施設。施設では毎日、洗濯業務が発生しますが、たいていの場合介護士がこの作業を対応しています。
「洗濯業を担う専門の会社があれば雇用も生み出せるし、介護士の負担も減らせると考えたのです」
平成28年、同社は稲城市に大規模洗濯センターを開設し、就労継続支援A型事業所としてスタートしました。3年後には板橋区にも事業所を新設。これら2事業所で80カ所以上の介護施設から洗濯業務を受託しています。蓄積されたノウハウを活かし、障害のある方だけでなく、ひとり親家庭や介護等の事情で長時間の勤務ができない方、ひきこもり経験を経て働き始めた方など、就労に困難を抱える方たちを積極的に採用するため、ソーシャルファームとして令和3年8月に開所したのがここ大田センターです。
職場環境が良くなる「ありがとう」の言葉
業務用の洗濯機や乾燥機が動き出すと、作業場には大きな音が響きます。スタッフはその音に負けないよう大きな声を出し、指先確認をしながら作業を進めます。洗濯前の衣類のチェックや乾燥後のたたみ方などはマニュアル化され、作業台や壁などすぐ目に入る場所にパネル等で設置しました。
大田センターは9時~17時の週5日勤務が基本ですが、時短勤務も認めています。また支援員もスタッフとして一緒に洗濯業務を行いながら目を配り、頑張りすぎているスタッフがいれば休憩を促すなど、無理なく長く働き続けられるようケアをしています。
「当社で大事にしているのは『ありがとう』という声掛けです。どんなに丁寧な作業をしても、ここにいるスタッフが入居者の方から、直接お礼の言葉をいただく機会はありません。だから業務の中で互いに『ありがとう』を伝えることをルール化しました」
「ありがとう」の言葉があふれることで良好な職場環境となり、かけられた感謝の言葉は仕事をしていく上での自信にもつながるのです。
win-winの関係性になる業務を考える
この仕事に携わる前、内藤さんはベネッセグループ内の介護事業に携わっていました。経験上、介護施設のスタッフにとって、洗濯業務は時間も手間もかかる重労働だという実感がありました。
「当社に洗濯業務を任せていただくことで『負担がなくなった分、毎日2時間余裕ができた』と喜んでいただいています。介護士は浮いた時間で見守りや介助など本来の介護業務に力を入れられますし、我々としても仕事が増えれば増えるほど、自律的な企業運営に近づいていくというwin-winの関係です。大田センターは最大で20施設の業務受託を想定しており、ありがたいことに、近隣の施設から、『うちの洗濯物を受け入れてもらえないのか』と催促されるほどです。本年(令和4年)3月には、洗濯機と乾燥機の増設を決めましたので、事業拡大に対応出来るよう、多くの方にここで働いていただきたいと考えています。受注を増やして、給与面でもスタッフにどんどん還元していきたいですね」
お客様の喜ぶ顔が想像できる仕事
大田センター開所時から勤務している松本さんは、一番のベテランスタッフ。まだまだスタッフの少ないセンターで、洗濯物の搬入から“たたみ”まですべての業務を担当しています。
「今はすべての作業をひと通り難なくこなせますが、入社当初は“ほぐし”の作業が少しだけ苦手でした。洗濯物は他の人の分と混ざらないよう、おひとり様分ずつ、ネットに入れた状態で洗濯も乾燥も行います。乾燥機にかける前には、乾燥ムラが出ないようネットごと持ち上げて、上下に振ってほぐすのですが、洗い終わりの衣類は水分を含んで重く、慣れるまで腕や肩が筋肉痛になりました。職場は明るく和やかな雰囲気。働くことの楽しさを実感できる毎日です。この仕事の魅力は、きれいになった洗濯物を見て、喜んでくれる方の顔が思い浮かぶこと。今はスタッフ全員がすべての業務を担当しなくてはならないほどの人手不足なので、新しい仲間を待ち望んでいます」
細かなノウハウを共有し、クオリティを担保
仕上がりにこだわるベネッセソシアス。誰もが高いクオリティを再現できるような工夫が随所にあります。例えば洗濯・乾燥時にテニスボールを一緒に入れると、絡まりの防止になると同時に、ふんわりとした仕上がりにつながります(※家庭用洗濯機では使用しないでください)。
ほかに、乾燥後の衣類やタオルは“手アイロン”でしっかりと伸ばしてから、A4サイズに揃えてたたむという手順をイラスト化し、サイズ合わせが簡単にできる特製ツールも作成しました。
「衣類のサイズが揃っていると整理もしやすく、受け取る側も気分がいい。実習時に、ピチッと揃うまで、何度もこだわってたたむ作業を繰り返せるような方が、この仕事には向いています」(内藤さん)
最後にソーシャルファームを運営する上でのアドバイスをうかがいました。
「誰もが楽しく働ける職場になるためのヒントは、現場で見つかるものだと思います。ぜひ大田センターに見学にいらしてください。そして職場の雰囲気や働き方をご自身の目で確認いただけたらと思います」
(令和4年1月取材)