事例紹介

事業者情報

企業組合あうん

所在地:東京都荒川区東日暮里1-36-10
業種:サービス・リサイクル業
従業員数:25人
http://awn-net.com/

地域に根を張り、力を合わせて前進

1人ひとりが対等で、お互いに支え合うことを経営理念としている企業組合あうんは、「便利屋あうん」、「リサイクルショップあうん」、「どっこい食堂あうん」の3事業を運営しています。

 

「便利屋あうん」は、地域包括支援センター、社会福祉協議会など公的な団体から依頼され、引っ越し、失踪者の部屋の片づけなどを行っています。生活協同組合と連携し、さらに事業を拡大しています。

 

「リサイクルショップあうん」では、便利屋の仕事で出てきた不用品、全国から寄せられた寄付、買取品などを点検・清掃して販売しています。

 

「どっこい食堂あうん」は、食事をしながら人が交流できる場所。ここで、古紙、古着、空き缶などの資源を対面で買い取ったり、日替わりのお弁当を販売するなど、コロナ禍で営業面では苦戦していますが、地域の核となれるよう試行錯誤で運営しています。

仕入れ先からトラックが到着。運ばれてきたリサイクル品はていねいに点検、清掃。さらに動作確認をした後、安心して使っていただけるよう販売時には3カ月の保証を付けています

組合設立のきっかけは野宿生活者支援

代表理事の荒川茂子さんは、1990年代に、路上生活者支援を行っていました。荒川区山谷で、2000年に炊き出しの米を集める「フードバンク」、2001年には健康相談や病院への橋渡しをする「隅田川医療相談会」を設立しました。

 

その後も、路上生活者は「生活保護も受けられない、仕事もない」ということで、支援活動を続けていましたが、集まった衣類などをリサイクル販売すれば仕事を生み出せるのではないかと考え、2002年8月、路上生活者、生活保護受給者など5人で小さな仕事おこしの団体「あうん」を設立。「リサイクルショップあうん」を開店させました。

 

2003年には「便利屋あうん」の事業を開始し、売り上げが安定してきた2007年に法人化。会社形態としては、各々が資本と労働を提供し、経営に参加できる企業組合を選択したのです。

 

2020年には、地域への恩返しの意味も込めて、「どっこい食堂あうん」を開店しました。

代表理事 荒川茂子さん

関わる人すべてがWin-Winの関係に

荒川さんは46歳のときに、勤めていた会社が倒産し、再就職先が見つからなかったという経験の持ち主。
「その時の私は、それこそ就労困難者でした。そう自覚して辛かった経験があるからこそ、この人は就労困難者、この人は就労困難者ではないというグループ分けはしていないのです」

 

近年、大手の便利屋が台頭してくると、価格競争で勝てないことが多くなってきました。
「便利屋は、隙間産業みたいなものだったのですが、ニーズがあるから大手が参入してきたのです。ただ、私たちは、価格競争に勝つために人件費を下げることはしません」と荒川さん。

 

地域との関係も強固なものになりつつあります。「フードバンク」、「隅田川医療相談会」が2019年につくった団体「一般社団法人あじいる」と一緒に、荒川区のジョイフル三ノ輪商店街で段ボールやアルミ缶の回収を行っています。

毎週木曜日は資源の回収を行っています。協力いただいている商店街の方々とも良好な関係が続いています

ゼロから事業を立ち上げる団体のモデルケースに

「地域の役に立っているという意識が、生きる力になるのです。地域に根差した活動が、「どっこい食堂あうん」という地域の拠点としての活動を、相乗効果となって盛り上げていくのではないかということも興味深いですね」と前代表理事の若畑省二さん。地域との連携をどのように広げていくかも、今後の課題として模索中です。

 

東京都の認証を受ける以前から、ヨーロッパや韓国などでは広く普及しているソーシャルファームという制度に興味があったという若畑さん。韓国の団体を視察したり、韓国からの視察を受け入れたりしていました。

「興味があれば、ぜひ見学に来てください。東京都のソーシャルファームとして認証されましたが、これをきっかけに、私たちの団体のようにゼロから事業を立ち上げようとしている団体が、よりスムーズに自立していけるようモデルケースとして参考にしてほしいですね」

 

今後の課題として、生活保護家庭の子どもへ、就労練習としての場を提供したいと荒川さん。「お互い対等で、支え合って生きていくのが理想です。そういう意味でも、ソーシャルファームの理念がもっと広まるといいですね」と語ってくれました。

前代表理事の若畑省二(わかはた しょうじ)さん

「あってよかった」と思ってもらえる 居場所でありたい

2021年4月入社し、現在は「リサイクルショップあうん」で働く仲嶺菜美子さん。
「前職では心理学の研究をしていました。職場での仕事に対する考え方になじめず、転職を考え、出会ったのが『あうん』でした」

 

もともと、路上生活者支援のボランティアに参加しており、支えられる側と支える側とが明瞭に分かれていることに違和感を覚え、双方の立場を意識せずに働ける場所を探していたと言います。「ここなら、自ら考えて、働くことができるのではないかと思いました。ここでは、入社年や年齢など関係なく、スタッフ全員が話し合ったり意見を言い合ったりできるのがいいですね」

 

現在、担当する仕事の内容は、事務処理、レジ、冷蔵庫や洗濯機など、リサイクル商品の洗浄、配達の助手など多岐にわたります。「入社半年で、まだまだわからないこと、できないことがたくさんありますが、少しずつ知識や技術を習得しています」

 

将来は、お客様の層を広げたい。コロナ禍で生活が苦しい人、何らかの理由で働くことができない人など、誰でも気軽に訪れることができる居場所になりたいのだそうです。
「自分がどのように関わっていくことができるのか、正解はわからないのですが、『あうん』で働く人も『あうん』を訪れる人も、ここに来てよかったと思える場所になれたらいいなと思っています」

仲嶺菜美子(なかみね なみこ)さん

地域と連携した3つの事業

●便利屋あうん

 

●リサイクルショップあうん

 

●どっこい食堂あうん