事例紹介

事業者情報
一般社団法人ビーンズ(ソーシャルグッドロースターズ エキュート上野店)
所在地:東京都台東区上野7-1-1 JR東日本上野駅改札内3F
業種:カフェでコーヒー等を提供
従業員数:4名
https://sgroasters.jp/?page_id=1659
所在地:東京都台東区上野7-1-1 JR東日本上野駅改札内3F
業種:カフェでコーヒー等を提供
従業員数:4名
https://sgroasters.jp/?page_id=1659
多くの人が行き交う“エキナカ”にソーシャルファームを出店
JR上野駅の改札内3Fのコンコースに面したソーシャルファーム『ソーシャルグッドロースターズエキュート上野店』は、テイクアウト専門のコーヒーショップ。一般社団法人ビーンズが神保町で就労継続支援B型事業所として運営するカフェ兼コーヒー豆の焙煎所に次ぐ店舗として、2024年3月に立ち上げられました。焙煎士の世界大会でも使用される最高峰のマシンを導入し、コーヒー豆の焙煎を行っています。障がいの有無に関わらず操作が難しい焙煎機を自在に扱う技術を持ったスタッフが育つことで、生豆が持つポテンシャルを最大限に引き出し、唯一無二のスペシャルティコーヒーを提供しています。「エキュート上野店では神保町で焙煎した豆を使った5種類のコーヒーの提供、コーヒー豆やお菓子の販売、商品のご説明などを行っています。今ではエキナカでおいしいスペシャルティコーヒーが気軽に楽しめることから多くのお客さまにご利用いただいていますが、オープン前は商業施設の中にソーシャルファームを展開することや、朝早くから夜まで働くという福祉施設らしからぬ営業時間に戸惑う関係者も少なくなかったんですよ」と代表の坂野拓海さんは準備期間を振り返ってくれました。

本当にやりたいことにチャレンジできることを“当たり前”にしたい
「今の仕事を始めたのは、会社員時代に人事として障がい者雇用を担当したのを機に始めたボランティア活動がきっかけでした。その中で、求人の数はあっても軽作業や清掃など限られた職種の募集しか出ていないことや、それゆえにやりたい仕事があってもチャレンジできないという障がい者の方を取り巻く就労問題に気づいたのです。そこで、皆さんに本当はどんなことがしてみたいのかをヒアリングすると、“誰かとかかわる仕事がしたい”“手に職をつけたい”とおっしゃっていて。一緒に話し合い、みんなが本当に挑戦してみたい仕事を考えた結果、プロとして本気でバリスタや焙煎士を目指せる福祉施設をつくることにしました。それが、2018年に神保町でスタートした就労継続支援B型事業所『ソーシャルグッドロースターズ』です」と坂野さんは語ります。最初は試行錯誤の日々だったそうですが、今では多くのスタッフがコーヒーに関する知識と技術を身につけ、プロとして仕事に取り組んでいるそうです。「2店舗目をソーシャルファームとして上野駅の商業施設に出店した理由は、障がいのあるバリスタや焙煎士たちが、自らの意志で挑戦できる機会をつくりたかったからです。お客様には、『おいしいコーヒーを楽しめるお店』として、先入観なくご利用いただきたいと考えています。そうすることで、彼ら彼女らが福祉施設や特例子会社といった特別な場所ではなく、日常の中で自然に活躍し、一般の人々と関わることが当たり前の風景となっていくことを願っています」と坂野さんは教えてくれました。

ソーシャルファームとエキナカの相性は想像以上
誰ひとり取り残さない社会を目指し、さまざまな壁を一つひとつ取り除いてきた坂野さんですが、準備期間に多くの関係者が感じた『商業施設にソーシャルファームを作る不安』とはどのように向き合ったのでしょうか。「駅という場所は多くの人が行き交う場所であるだけでなく、多くの人が働く場所でもあるため、実は休憩スペースや救護室などが充分に整備されていたのです。万が一のときに頼れる先が多いということは就労に困難を抱える方の安心だけでなく、一緒に働く方の不安解消にもつながりました。さらに、ターミナル駅はアクセスがいいので通勤がラク。通勤や体力面で不安を抱える方にとって、うってつけの環境だったのです。加えて、アルバイトからスタートした方でもバリスタや店長へとステップアップできる人事評価制度を整え、成長の機会を提供しています。こうした取り組みを通じて、これまでのソーシャルファームや福祉施設の働き方のイメージを塗り替え、困難の有無に関わらず、誰もが自分の理想の姿を諦めることなく働ける職場をつくっていきたいと考えています」。

自分がいなくても何でもできるスペシャリストを育てたい
上野店の現場責任者である志治さんは、入職4年目。これまではコーヒー業界、アパレル業界と福祉とは無縁の世界で社会人経験を積んできました。
「実は自分の弟も障がいを抱えているのですが、身近で見ていて選べる職種の数が少ないことがずっと気になっていました。そんなときにソーシャルグッドロースターズに出会い、自分のコーヒー業界での経験を生かしてソーシャルファームで働くことは弟のように障がいをもつ方々の職の選択肢を広げるきっかけになるのではないかと思い入職を決めました。働き始めて気づいたのは、自分も知らず知らずのうちに障がいを抱える方々に“壁”を作っていたんだということ。以前は “やってあげなくちゃ”という意識が強かったのですが、一緒に働いてみるとそのような意識はいらなかった。だから誰に対しても自然に接するようになりましたし、今は助けなきゃというよりも、自分がいなくても何でもできるようになってほしいと思うようになりました。個人的な目標はみんなのお手本になるべく、コーヒー関連の大会で結果を出すこと。昨年は『CBT Japan 2024』という64人のバリスタによるトーナメントサバイバル大会でベスト8に入ったのですが、もっと上を目指したいですね」。
「実は自分の弟も障がいを抱えているのですが、身近で見ていて選べる職種の数が少ないことがずっと気になっていました。そんなときにソーシャルグッドロースターズに出会い、自分のコーヒー業界での経験を生かしてソーシャルファームで働くことは弟のように障がいをもつ方々の職の選択肢を広げるきっかけになるのではないかと思い入職を決めました。働き始めて気づいたのは、自分も知らず知らずのうちに障がいを抱える方々に“壁”を作っていたんだということ。以前は “やってあげなくちゃ”という意識が強かったのですが、一緒に働いてみるとそのような意識はいらなかった。だから誰に対しても自然に接するようになりましたし、今は助けなきゃというよりも、自分がいなくても何でもできるようになってほしいと思うようになりました。個人的な目標はみんなのお手本になるべく、コーヒー関連の大会で結果を出すこと。昨年は『CBT Japan 2024』という64人のバリスタによるトーナメントサバイバル大会でベスト8に入ったのですが、もっと上を目指したいですね」。

就労継続支援B型事業所と一般企業の間のポジションだから、学べることがある
2024年11月から勤務している畑中さんは、大学時代、車の運転中の事故が原因で首の骨を骨折。後遺症として記憶障がいが残ってしまったそう。「大学ではバイクメーカーのデザイナーを目指し、インダストリアルデザインの勉強をしていました。結果的にその道には進めませんでしたが、退院後、先輩が働くお店で飲んだコーヒーがきっかけで、おもしろさに開眼。自分なりに勉強する中で、プロとしての技術を身につけたくなりソーシャルグッドロースターズに応募しました。私は記憶に障がいがあるのでスマホやノートに気をつけるべきことや、指導係の志治さんに教えてもらったこと、自分で勉強したことを細かく記録。それを日々読み直し、努力することで成長を感じられるようになってきました。ソーシャルファームは、就労継続支援B型事業所と一般企業の間のようなポジション。ここだからこそ学べることがあると思っているので、目標であるコーヒースタンドの健常者のバリスタと同じように働くための土台をしっかり作りたいです」。

多くの人を受け入れて、就労に困難を抱える方が少ない世の中に
商業施設にソーシャルファームを展開して約1年。ソーシャルグッドロースターズを取り巻く環境の変化や、今後の目標について坂野さんに伺いました。「2027年3月までに10名の障がい者を雇用することを目標としてきましたが、こちらは今年中には達成できそうです。しかし、エキュート上野店だけでは受け入れ人数に限りがあるため、このようなソーシャルファームを増やしていきたいと考えています。ちなみにソーシャルグッドロースターズで使用しているコーヒー豆は、貧困国の生産者からフェアトレードで購入し、焼き菓子などの製造は地域の福祉施設に委託しています。こうして、店舗での販売を通じて得た利益が、コーヒー生産者や福祉施設へと循環する仕組みを構築しています。一般的に、障がいのある方は支援を受ける側だと思われがちですが、プロフェッショナルな技術で淹れる一杯のコーヒーが、誰かを支える力になることもあります。私たちは、こうした温かな循環を、コーヒーを通じて創り続けていきたいと考えています」。
(令和7年1月取材)
(令和7年1月取材)
