事例紹介
事業者情報
株式会社BTF(本店)
所在地:東京都府中市四谷2-41-3
業種:カフェ、ジャム工房などの運営、農業
従業員数:25名
https://btf-428cafe.com/
自分たちで育てた野菜や庭で採れた果実を使い、季節を感じられるベジプレートやジャムを提供
株式会社BTF(本店)は、東京都府中市で『428cafe+』(ヨツヤカフェ)を運営しています。東京都でありながら、田んぼや畑など自然あふれる場所にある『428cafe+』は、もともと代表の市川寿子さんの祖父母の自宅だった場所を活用した古民家カフェ。カフェの目の前にある畑で育てた野菜や地元で採れたお米を使った料理、庭で採れた果実で作ったジャムを使用したデザートが人気で、連日、多くのお客様にご利用いただいているそうです。就労に困難を抱える方々は、野菜や花の栽培、畑の手入れ、花を利用した加工品の企画や商品づくり等を主に行っています。
2022年4月にカフェをオープンし、同年9月にソーシャルファームの認証を取得した代表の市川さんに事業を始めたきっかけを伺いました。
「母親が福祉の仕事をしている関係で、様々な事情で働くことができない方がいることや、ソーシャルファームの存在は、カフェをオープンする前から知っていました。『428cafe+』は祖父母が他界して住み手がいなくなった家を、地元のお客様の拠り所になる場所にしたくて始めたのですが、同時にソーシャルファームを立ち上げることで、就労に困難を抱える方々が本格的に社会復帰する前のきっかけづくりになればと思ったのです」。市川さんは笑顔でソーシャルファームに込めた想いを教えてくれました。
見学会や就労体験を通じて、ミスマッチの少ない採用を実現。地域住民への“お披露目会”の開催
市川さんがカフェのオープン後に行ったのは、地域の皆さんへの “お披露目会”です。「府中市四谷というエリアは、近隣に住んでいる人は大体が顔見知りという町。何をしているのか不安を感じる方もいらっしゃるのではと思い、まずは改装した店内を見ていただきながら事業紹介を行い、その中でソーシャルファームに関するお話をさせていただきました。また、就労にハードルを抱えている方が、不安を感じずにスタートを切れる取り組みとして、若者の就労支援を行う『認定NPO法人 育て上げネット』主催で“見学会”を開催。仕事内容が合っているか、『428cafe+』の雰囲気になじめそうかなどを見極めてもらう機会を設けました。見学会には約8名が参加。後日開催した2日間の就労体験には4名の方が来てくれました。そこでは畑で育てているハーブのお世話などをお任せしました。現在いる2名の女性も見学会と就労体験を経た上で働くことを決めてくれたんですよ」と市川さんは教えてくれました。そしてお披露目会と見学会を実施した結果、『428cafe+』を運営する上で市川さんは新しい目標が生まれたそう。「ありがたいことに近くの畑の農家さんが野菜づくりのノウハウをスタッフに教えてくれたり、農作業に必要な道具を貸してくれたりするようになったのですが、この辺りで農業に携わっている方はご高齢の方が中心。ソーシャルファームで働いているのは20~30代が中心なので、私たちの活動が将来的に四谷の自然あふれる景色を守ることにもつながると嬉しいですね」。
“働くこと”に慣れてもらうための試みを実践。常に“働く人”の気持ちや体調に寄り添う
「見学会などを通じて、どのような仕事をするかイメージした上で入社していただいていますが、最初からフルで働くと体力的な問題が生まれてしまうと思ったため、徐々に慣れてもらうところからスタートしました。去年の夏に入社した2人は週3日勤務から始めて、本人たちの意向で現在は週4~5日勤務に。今では野菜づくりだけでなく、お花やハーブを使った商品の企画開発にも、率先して取り組んでくれています」と市川さんは嬉しそうに話してくれました。さらに、急なお休みに対しても面談でのスタッフの声をヒントに、ある考えに辿り着いたそうです。「シフトは1ヶ月ごとに決めていますが、体調や気持ちの波などによって急にお休みになる場合もあります。そんなときに思い出すのが“一般企業に勤めていたときは、休むことによるプレッシャーも強く感じていた”という言葉。甘えで休んでいるのではなく、行きたくても行けない人にとっては“いつなら大丈夫そう?”という質問もプレッシャーになってしまうそう。私はここで“働くこと”にまず慣れてほしいので、“気が向いたときに来ていいからね”と伝えるようにしています。こういった対応ができるのも、ソーシャルファームならではのメリットだと思います」と市川さんは教えてくれました。
重度の知的障害のある子どもを取り巻く環境をより良いものにするために移住を決意
愛知県出身のMさんは、こちらのソーシャルファームで働くスタッフの中で唯一の農業経験者。一般企業で勤務していたときに一念発起し、有機農家の道を歩み始めました。そんなMさんが愛知県から東京都府中市に移住を決めたのは、知的障害のある双子のお子さんを取り巻く環境をより良いものにするのが目的だったそうです。「うちの子どもたちの障害はかなり重度で預けられる場所がなく、毎日夫婦で面倒をみている状態でした。そのようなときに福祉関連の講演をしに来られたとある施設の方に、府中のほうが子育てしやすいと思うので移住してみては?と、ご提案いただきました」。そして、5年前に移住し、以前よりも状況は改善されたものの、完璧に理想通り…とは言い難い環境だったとMさんは語ります。「最初に就いた農業関連の仕事は朝6時からで、子どもの朝の準備を妻だけに任せなければならず、1年ほど勤務して退職しました。次の職場は介護関連で時間の融通が利くと聞いていましたが、やはり朝と夕方が忙しく子どもたちの面倒を充分にみられず転職を考えているときに、ソーシャルファームの立ち上げに向けて農業ができる人を探しているという話が舞い込んできたのです」。
子どもたちの育児と、大好きな農業の両立を実現!
ソーシャルファームで働き始めたことで、Mさんは仕事とお子さんのケアを両立できる理想の環境を手に入れたそう。「9時から17時の勤務なので、子どもたちの朝の準備や帰ってきてからのサポートもしっかり関われるようになりました。自分にとって野菜を育てる時間はとても大切なもので、介護の仕事をしていたときは自分で畑を借りようかと考えていました。そんなタイミングで、農業を仕事にできたのはありがたいとしか言えないです。今は年間30種類ほどの野菜を栽培しています」。そんなMさんに今後の目標を伺いました。「利益をきちんと出すことはソーシャルファームを運営する上で欠かせないと考えているため、今よりも畑を拡大して野菜の販売にも力を入れたいです。あと加工品の幅も広げていきたいですね」と笑顔で教えてくれました。
ブランディングも大切にしながらさらに事業を拡大し、就労に困難を抱える方の雇用を促進
市川さんに“ブランディング”に関するお話しを伺いました。「店内の装飾や、ジャムなどの加工品のロゴも、いわゆる福祉っぽい感じではなくオシャレなものにすることで私たちのお店で食べた、購入したという価値観をプラスしたかったので、プロのデザイナーさんにすべて依頼しました。ご提供する料理や商品のクオリティも、少し値は張るものの満足していただけるものに仕上げています。お客様には料理や商品に魅力を感じて利用しているのに実は社会貢献しているという、プラスαの価値もご提供したいと思っています」。ファンを増やすことが安定したソーシャルファームの運営につながると考えている市川さんに、今後の展望をお伺いしました。「ソーシャルファームを運営してみてわかったのは、働きたいと言ってくださる方が想像以上に多いことです。現在は4名ですがさらに2名増えて、来月からは計6名の方に働いていただきます。だからこそ、今まで以上にソーシャルファームの規模を大きくして、たくさんのニーズにお応えできる環境をつくっていきたいと思います。また、東京都から認証をいただいている立場の人間としては、幅広い方に向けてソーシャルファームの普及啓発の活動も行っていきたいですね」。
(令和5年6月取材)