事例紹介
事業者情報
有限会社ケア・プランニング(さんさんふぁーむ)
所在地:東京都荒川区荒川5-36-1
業種:野菜の水耕栽培、販売 等
従業員数:8名
https://www.best-kaigo.com/socialfirm/
介護施設や宅配弁当で利用する野菜を水耕栽培
2003年の設立から訪問介護や訪問看護などの福祉サービスの提供を通じて、地域に貢献してきた有限会社ケア・プランニング。2021年11月からはソーシャルファーム「さんさんふぁーむ」を立ち上げ、水耕栽培での野菜づくりを行っています。同社はなぜ、メイン事業である福祉サービス事業とはまったく違う事業をスタートしたのでしょうか。
「野菜づくりを通じて土に触れることは、サービスを利用してくださるご高齢者の皆さんに良い効果があると知ったのがきっかけでした。まずは土地探しから始めたのですが、なかなか“ここだ!”という場所に巡り合うことができず…。半分諦めそうになっているときに、スマート農業を研究している教授と出会ったんです。そのお話の中で『思っているよりも難しくないですよ』とアドバイスをいただき、畑での野菜づくりから水耕栽培に方向転換しました。丁度そのタイミングで東京都がソーシャルファームの支援を開始するという話を聞きました。福祉サービスを受けているご高齢者の中にも、精神疾患や障がいを抱えている方が少なからずいらっしゃることもあり、就労が困難な方でも活躍できる場の提供という考えを前々からもっていたので、ソーシャルファームで水耕栽培をすることにしました」と常務取締役の田中さんはソーシャルファームを立ち上げたきっかけを聞かせてくれました。
福祉サービスを提供する中で、就労困難問題にも注目するように
約1年かけて水耕栽培の設備を整え、本格的にソーシャルファームとしての第一歩を踏み出した「さんさんふぁーむ」。
従業員の皆さんはどのようなお仕事をしているのでしょうか。
「現在栽培しているサニーレタスやファンシーグリーンは、介護施設や宅配弁当で提供するサラダなどに利用しています。 皆さんの適性を見ながら、種植えや水の入れ替え、栄養値やpHの記録といった野菜の管理、お弁当の配達、事務作業を担当してもらっています。水耕栽培は、教授が言うほど簡単ではありませんでしたが、光を当てる時間を変えたり、試食会を開いたりしながら職員同士で試行錯誤することで、安定して栽培できるようになっていきました」。
“つづける”ことに対するハードルを克服するために、まずは“慣れる”ことから
田中さんは、就労に困難を抱える方を採用する際に、「まずは職場に通うことに慣れましょう」と伝えているそう。その言葉に込めた意味をお伺いしました。「心と体がバラバラの状態だったり、生活リズムが乱れたりしている方にとって、“つづけること”は想像以上にハードルが高いものです。だから、まずはここに来ることに慣れてほしいと考えたんです。そしてできることが増えてきたタイミングで、少しずつ新しい仕事を任せ、成功体験を積み重ねることが、本格的な社会復帰のきっかけになればいいなと思っています」。
従業員の方々のサポートは事務局長の茂木さんも担当されています。どのような点に気を配っているかを教えていただきました。「一人ひとりの状況や性格などを把握した上で、それぞれに合った仕事をお任せしています。仕事に慣れてくる中で自信がついてきたように感じます。面接では一言、二言くらいしか話さなかった方が、今では自ら報告に来てくれるまで打ち解けてくれたのは驚きでした」。
野菜の成長を見るのは楽しいし、やりがいにもなります
2022年6月から週3回「さんさんふぁーむ」で働いているTさんに仕事内容について伺いました。「担当しているのは野菜の管理です。水のpH濃度を測ってスマホの業務共有アプリに記録したり、水を替えたりしています。その他に、事務所内の掃除なども担当しています。今度から、新しい仕事を任せてもらえることになったので、その装置を動かす練習もしています。働いていて楽しいことは、野菜の成長を見られること。大きくなっていくのを日々見守れるのは楽しいですし、やりがいにもなります。家に持ち帰って食べてもらったこともあるのですが、『みずみずしいね』『ちょっと苦みがあるかも』といった家族からの感想もうれしく思いました」。
世の中に役立っていることを実感することで、従業員の笑顔が増えていきました
就労に困難を抱えている方々を近くで見守っている茂木さんに、働き始めてからの皆さんの変化を伺いしました。「うまく野菜が発芽しなかった際に、職員同士で話し合うなど、協力しながら働く機会が増えていった気がします。配達に行った際もお弁当を渡すだけでなくお客様とお話をして帰ってくるようにもなりました。お客様の反応などを通じて、世の中の役に立っていることを実感できたことがみんなの変化に大きく影響している気がしますね」。
さらに就労に困難を抱える方者の雇用を生み出すために、ハーブティーの販売を計画
試行錯誤を繰り返しながら、野菜それぞれの特性を把握して栽培方法を工夫することで安定栽培を実現。無農薬で育てられた「さんさんふぁーむ」の野菜は、子どもにも安心して食べさせられるとお客様から好評だそうです。野菜づくりが軌道にのった現在、田中さんは今後の展望についてどのように考えているのでしょうか。
「今はお弁当に使用する葉物野菜が中心ですが、近いうちに、水耕栽培でミントを育てたいと考えています。このミントを使ったハーブティーをデイサービスに来た方にお出ししたり、ECサイトで販売したりすることで、さらに多くの就労に困難を抱える方を雇用できる環境をつくりたいと考えています。将来的にはここで採れた野菜で、ソーシャルファームのメンバーや介護施設をご利用するご高齢者とバーベキューができたらうれしいですね!」。田中さんは楽しそうな笑顔で、思い描いている未来を教えてくれました。
(令和5年1月取材)