事例紹介

事業者情報

特定非営利活動法人わくわくかん(「しげんcaféわくわく」しげんcafé green/リサイクルショップわくわく)

所在地:東京都北区浮間4-1-26
業種:コミュニティカフェ、リユースショップの2つからなる事業
従業員数:7名
http://wakuwakukan.net/shigencafe/

障害福祉サービスを行ってきたNPO法人が「地域に開かれた場作り」を目的目標に新規事業を立ち上げ

荒川からほど近い北区の浮間四丁目交差点にある「しげんcaféわくわく」は、カフェとリサイクルショップの2店舗からなる事業所です。リサイクルショップにいらなくなったリユース品や古紙、古着などの資源を持ち込むとポイントが付与され、貯めたポイントはカフェで利用することもできます。緑を基調としたカフェには音楽が流れ、ゆったりとくつろげる雰囲気。リサイクルショップは店舗外のテントスペースにも雑貨や衣類などが陳列され、道行く人が興味深そうに立ち寄ります。

2022年3月にソーシャルファームの認証を受けた「しげんcaféわくわく」の母体となっているのは「NPO法人わくわくかん」です。北区を拠点に、20年にわたって主に精神障害のある方に対する就労支援やグループホーム、配食サービスなどを行ってきました。

この「わくわくかん」で活動をしてきた若畑省二さんや、精神保健福祉士・社会福祉士の資格を持つ藤井晴太郎さんが中心となり立ち上げた新規プロジェクトが「しげんcaféわくわく」です。従業員数7名のうち就労に困難を抱える方は4名。「地域に開かれた場を作りたいという目標に沿って、リサイクルショップだけでなくカフェも実現することができました」と若畑さんは話します。

立ち上げメンバーの若畑省二さん。しげんcaféわくわくへの想いを語ってくださいました

補助金を改装費に活用し、心地よいカフェスペースを作った

若畑さんは「障害者が社会参加できる場はまだまだ限定されている。障害福祉サービスの枠を超えた新しい事業を立ち上げたい」と、藤井さんと2人で2019年から実現に向けたミーティングを重ねていました。

そんな中、2020年10月にソーシャルファーム予備認証募集の情報を知り、翌月に申請、2021年3月に予備認証を受け、開業準備に本格的に取りかかりました。

「カフェとリサイクルショップを同時に立ち上げしたいと考え、愛知県の事例を見学に行くなどして開業に向けてイメージを広げていました。物件探しでは悩みましたが、最終的に浮間四丁目交差点のJRの高架下にある、50坪(うち建物約30坪)の現在の物件と巡り合いました」と若畑さんは話してくださいました。

補助金を活用し、カフェスペースを2カ月にわたって改装。天井や床、壁を貼り替えて厨房も新設し、2021年12月に開業しました。

JRの高架下に横並びに立地する2つの店舗。商品が綺麗に陳列されており、お店に入りやすい雰囲気も特徴の一つ

開業当初は集客で苦戦するが、ターゲットを絞ることで客層を開拓

「『しげんcaféわくわく』は人通りの多い交差点にあり、多くの人が訪れてくれるに違いないと思っていた」という若畑さん。しかし、開業当初は客足が芳しくなく「しばらくの間、カフェにもリサイクルショップにもお客さんが来てくれなくて青ざめました」と話します。「客層を観察するうち、リサイクルショップの顧客として予想していた高齢者よりも子育て世帯が多く、子供たちが友達を連れて覗きに来てくれることがわかってきた」と言います。

そこで、「ターゲットを子育て層に絞ろう!」と、毎月1回、土曜日に「わくフェス」と名付けた縁日を開催したところ、毎回、たこ焼きやかき氷、スーパーボールすくいなどに行列ができ、のべ150名が訪れました。店舗内にも子ども向けブースを作り、1つ10円のおもちゃなど、お小遣いで買えるものの品揃えを強化しました。

「開業から8カ月ぐらい経過した頃から、収益は上向きになってきました」と藤井さんは言います。最近では家具や家電をリユースすることに抵抗感のない外国人客や、高齢の女性の来客も増えています。

大人気のわくフェスを紹介して下さった藤井晴太郎さん

「支援する側、される側」を分けないことで力を発揮し合える

少人数でカフェとリサイクルショップを運営しているため、従業員に負担がかからないように工夫を心掛けています。「カフェでは軽食や飲み物、スイーツを提供していますが、調理工程をできるだけシンプル化しています」。クレープ生地はすでに焼き上がったものを使用。「日替わりヘルシーセット」(600円)は、法人内の配食事業で作った惣菜を盛り付け、カフェで炊いたごはんと一緒にを提供しています。

スタッフ同士のコミュニケーションで意識していることは、フラットな関係作り。「構えて接したり特別扱いをしないことが大切だと思います。人によって接し方を変えると不信感を招いてしまいます。素直にお願いし、お願いされる。フランクに“タメ語”で話していますよ」と若畑さんは話します。

藤井さんも「支援する側、される側、と立場を分けてしまうと、互いに期待しなくなってしまう部分があると感じます。“共に働く”という職場は、互いに難しい、と思う局面もありますが、取り組むことは絶対に面白いし、みんなの力を発揮しあえる場になると、この新規事業を通じて実感しています」と話します。

少人数で運営を行っているため、調理工程をシンプル化する等の工夫が施されています

「苦手だと思っていた接客も慣れていくうちに楽しみに。信頼感を感じられる職場」

従業員全員がフラットであることは、コロナ禍を切り抜ける発想にもつながったといいます。就労に困難を抱える従業員のHさんは、店舗内の出窓スペースをテイクアウトの窓口にすることを提案。その結果、クレープなどの売れ行きが上がりました。Hさんは日々のTwitter発信も積極的に行います。「アイデアマンのHさんにいつも助けられています」と藤井さんは教えてくれました。

藤井加奈さんは、北区のハローワークの専門相談員を介して一緒に働くようになりました。 開業当初から平日10時から16時に勤務し、リサイクルショップの商品清掃や値付け、カフェでの接客などを行っています。「接客は苦手だと思っていたのですが、だんだん慣れてきて、こういう仕事もいいなと思っています。みんな優しい方たちです。自分から話すことは少ないけれど、信頼できる人達がいるこの職場で働くことができてよかったです」と話します。5歳のお子さんのママでもある藤井さん。「やんちゃな子どもたちがお客さんでやってくると、かわいいなぁと思って元気が出ます」と微笑みます。

「藤井加奈さんの接客にお客さんが笑顔になってくれているシーンをよく見かけます」と藤井晴太郎さん。

素敵な笑顔が印象的な藤井加奈さん。藤井さんの笑顔を見て、訪れるお客様も笑顔になっていきます

地域のリサイクル拠点として、就労に困難を抱える方の居場所としても成長させていきたい

開業からまもなく1年。課題となっているのは、自律的な事業運営のために収益性を上げていくこと。「今後は、福祉事務所や地域包括支援センターなどからの依頼を受け、独居高齢者などの家財片付けを行う“片付け事業”に積極的に取り組もうと考えています。今後、軽トラックを1台導入し、稼働性を高めていきます」と若畑さん。コロナ禍の影響によって、北区のリサイクル事業「エコー広場」が閉鎖されたため、リサイクル品を持ち込む客も増えてきているそう。「地域のリサイクル拠点としてさらに認知されるためにSNSでの情報発信や、エリア内へのポスティングも行っています」。

カフェでは「地域に開かれた場作り」をさらに実現するために、就学前児童や小学生向けのクラフト制作のワークショップの他、NPOで培ってきたネットワークを活用してミーティングなどの勉強会の場にもしていきたいと考えています。「地域に就労に困難を抱える方の居場所が当たり前に存在する場のモデルとして、この場をたくさんの方に見ていただけるよう、情報発信をしていきたいです」(藤井晴太郎さん)。

 

(令和4年11月取材)

多くの商品が綺麗に陳列されている店内。今後の若畑さん達の取組にも注目です。