事例紹介
事業者情報
VALT JAPAN株式会社(東京本社)
所在地:東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング36階 ワークスタイリング霞が関内
業種:障がい者特化型BPO事業、障がい者雇用支援事業、ECサイト開発・管理、CSR・CSV推進支援事業 他
従業員数:14人(東京本社)
https://www.valt-japan.com/
雇用のデマンド&サプライ 双方に大きなメリット
就労支援特化型の受発注プラットフォーム「NEXT HERO」を手掛けるヴァルトジャパン株式会社は、2014年8月に設立され、2021年、ソーシャルファームとして認証されました。民間企業、自治体などに働きかけ、障害のある方に適した業務を受注し、全国の就労継続支援事業所または在宅の登録ワーカー(※1)の方々に業務を依頼します。そこでの業務が終われば同社が最終的に品質をチェックした上で発注者に納品します。
この仕組みは、デマンドサイド(※2)となる企業、団体の側からすれば、どのような登録ワーカーが担当するかという不安を払拭でき、サプライサイド(※3)である登録ワーカーの立場では自分たちが知らない企業、団体の業務でも安心して業務を受けられ、チャレンジする意欲を育めます。
「現在、登録ワーカーに支払われる工賃のアップが大きな目標です。そのために登録ワーカーが時間当たりにこなせる仕事量を増やし、作業効率を上げ、その実績を企業側に示す必要があります。例えば各施設の支援員や職員の方々に、登録ワーカーのパソコンスキル向上を促しますが、その際に登録ワーカーへの伝え方まで含め、提案します。登録ワーカーにあまり無理をさせないよう指示を出しています」と、仙台支社の川人圭将(かわひとけいすけ)ディレクター。
※1 登録ワーカー:NEXT HEROを利用して業務の受注を行っている就労継続支援事業所の利用者を表す。
※2 デマンドサイド:需要側。発注者を表す。
※3 サプライサイド:供給側。受注者を表す。
働く場を持つことでますます豊かな日々に
小野社長は、もともと製薬会社で精神疾患系、生活習慣病系のMR(※)を担当していました。
「私自身が摂食障害だったこともあり、患者という立場で30名ほどの患者会に出席したところ、ほとんどすべての出席者が同じ気持ちを持っていらっしゃいました。『仕事での成功体験がない』。当時の私は薬を通じて患者さんの生活を良くしたいというモチベーションにあふれていましたが、実際には限界があるという現実を目の当たりにしたのです。この経験がきっかけで薬を通じてではなく、仕事における成功体験を積んでもらうことで、患者さんの生活を良くすることができるのではないかと思うようになりました」とのこと。
小野社長は患者会の方々の気持ちをよく理解できました。就労に困難を抱える方々も働く場という拠り所さえあれば、社会で輝けると確信し、起業という決断に至ったのです。
※MR(医薬情報担当者)
クライアントと登録ワーカーを橋渡し 質の高い成果を実現
東京本社は、大きく分けてふたつの業務を担っています。納品前に作業の品質チェックをするクオリティコントロールと、受注業務を登録ワーカーに発注する前に定型化するなど、可能な限り働きやすい内容に調整する業務です。取材時、同部門に4名の就労に困難を抱える従業員が在籍していました。
「就労はフレックスタイムを導入しています。彼らの体調をふまえ、休息はいつでも取ることができる体制です。欠勤や急な早退などの連絡もチャットのやり取りで対応しています。また、彼らには失敗を前提としたマインドセットを大事に、期待値調整を行っています。安心して転べるようフワフワのクッションを敷いてあげるイメージです。徐々にチャレンジする力を養っていき、業務の幅を拡げていくことは、彼らにとっても会社としても重要であると捉えているからです」と、小野社長は各従業員を見守りながら、将来に向け彼らを育む姿勢であることが伺えます。
テクノロジーの進化でよりスムーズに業務進行
中元 徹(なかもととおる)さんは、東京本社に入社4年目となるディレクター職です。
クライアントと施設、在宅の登録ワーカーとの間に立って、案件の円滑な運用を担っています。
「例えば、WEBサイトをお持ちのクライアントからSEO対策でブログ更新業務の代行という業務が入ったことがありました。登録ワーカーに発注し、出来上がった作業を文字数、段落数やキーワード、NGワードをはじめ細かいルールを書き込んだ指示書通りに仕上がっているかどうかをきめ細かく確認していきます。以前は確認作業に時間がかかってしまうことがありましたが、現在では、スプレッドシートを用いたツールを活用するなどして、誤字・脱字や間違った箇所を、すぐにPC画面上に表示できます。ソフトウエアの活用で、登録ワーカーに負担が少なく、納期に間に合うといった流れが実現するようになりました」と中元さん。
今後の業務に向け、日々の仕事の中で、確かな手応えを感じています。
自身の体調を見ながら無理なく働くことで意欲アップ
東京本社で入社4年目になる小磯 純(こいそじゅん)さんは、主に登録ワーカーから納品された作業のクオリティチェックを担当しています。
「疾患を持っているため、長時間の作業に疲れを感じることがあり、休息をとりながら負担の少ない業務にしています。入社1、2年目の経験から、寒い時期は体調を崩しやすく、休みがちであることがわかりました。そこで、秋冬は勤務時間を短く、逆に春になると長く勤務できるよう会社に申し出ています」と小磯さん。
「対面での会話や電話が得意ではないので、仕事でのやり取りは、メールで行いますがテキストだと把握するのに時間がかかります。文章の読解力、指示の理解力をつけ、同時に私が会社に進捗状況を説明する際も、よりわかりやすく伝えたいと思っています」と仕事に対する意欲を高めています。
ワーカーの能力が明確になれば作業領域もいちだんと拡大
将来に向け、小野社長は登録ワーカーの能力の見える化を図りたいと考えています。
「障害のある方は、それぞれ特性があります。仕事をする上で、どんな特性や個性があるかを把握することは、きわめて重要です。例えばPCで、一人ひとりの能力を『データ入力ができる』というように把握するのではなく、『キーボード・マウス操作が可能』、あるいは『データを目で確認できる』など、具体的な能力を把握することで映画の字幕や動画編集へと仕事を拡げられます。一人ひとりの能力をきちんと把握することで、それぞれの能力の拡張性を高められるのです」と力説。
ここ数年、IT関連の業界では、テクノロジーの進化によってスマートフォンひとつで動画編集が可能になるなど、就労に困難を抱える方々の職域が加速度的に拡がっています。
「まさに今を絶好の機会と捉え、わが社は、この成長市場に先行して積極的に参入していこうと考えています。各ワーカーの能力を正確に見極めることさえできれば、必ずそれは実現できると思います」とのこと。
認証ソーシャルファーム制度は、これまで就労に困難を抱えながらも、支援対象になりにくかった方々を支えています。小野社長は、ソーシャルファーム制度によって障害者手帳を持たない方の就労が拡がっていくことに大きな期待を寄せています。
(令和4年1月取材)