事例紹介

事業者情報

NPO法人東京ソテリア(ソテリアファーム)

所在地:新宿区四谷1-3-20(店舗)、新宿区四谷1-10-5(仕込み場所)
業種:飲食業(テイクアウト専門店)
従業員数:20人
https://sf.soteria.jp/

食を通じて多様性を体現するサラダスタンド

ソテリアファームは「地産地消」「スローフード」「多様性」をキーワードに、健康的な食を提供するテイクアウト専門のサラダスタンドです。店舗近くの仕込み場所で作った新鮮なサラダのほか、出来立てのお弁当に加えて、母体であるNPO法人東京ソテリアが運営する就労支援施設などで作ったスイーツも販売しています。お店を運営しているのはイタリア、フィリピン、中国、バングラディシュ、ミャンマーといった外国にルーツを持つスタッフ。サラダに添えられるドレッシングや、お弁当のおかずはスタッフの出身地にちなんだものにこだわるほか、根っこまでまるごと使った野菜のマフィンの販売も行っています。食を通じて多様性を体現するSDGsを意識したお店としてJR四ツ谷駅の目の前で営業中です。
「地産地消やスローフードをキーワードに、国際色豊かで健康的な食事を提供している背景にあるものについて、文化とビジネス中心である東京の真ん中から発信していきたい」と語るのは、同店を経営面からサポートするスタッフの塚本さやかさんです。

店舗から3分ほどの距離にある仕込み場所で、お弁当やサラダを調理しています

ランチタイムに合わせてお店はオープン。サラダ、お弁当、スイーツが日替わりメニューで販売されています

(写真提供:NPO法人東京ソテリア ソテリアファーム)/マフィンはグルテンフリー。フードロス対策の意味もあり、小松菜であれば根の部分まで使用します

インクルーシブな社会づくりに貢献するための事業所

同法人では「他文化の中に身を置く人は、メンタルヘルスの問題に直面するケースが少なくない。つまり、日本に住む外国人で精神に障害があるために働けない人が潜在的にいるのではないか」という問題意識があり、これに取り組むためソーシャルファーム事業に参入しました。

「障害福祉サービスは支援を『する人』『される人』という関係になりがちですが、ソーシャルファームは公正な労働基準の下、誰もが対等な立場で共に働くことができる点も魅力に感じました。支援をされる人が『福祉を受ける人』ではなく『社会の担い手』になっていけば、本当の意味でのインクルーシブな社会になるはずです」(塚本さん)
心身の健康を考えるためのメッセージとして、伝統的な食文化や旬の食材の価値を見直し、環境にも好影響を与えるという「スローフード」をコンセプトにした店舗作りが始まりました。

もともと日本語教師をしており「滞日外国人の精神面でのケアに取り組んでみたかった」という塚本さん

国際色を強みに。コンセプトを体現できる人材をトップに

サラダスタンドを選んだ理由は「高度な調理技術がなくても製造できる」点と「多様な文化を持つ人々が働いているという店の特色をドレッシングで手軽に表現できる」という点からです。日々の営業はイタリア出身のマネージャー、トマーソ・スグアンチさんが中心となり進めています。
「トマーソさんは現場を見てもらうリーダーとして採用しました。ヨガの先生でもあるので、当事業所のコンセプトである心身の健康への造詣が深いと考えたからです」(塚本さん)。
トマーソさんは「文化も違えば、マインドセットも国によってまるで違う。でも人と人とのコミュニケーションは生きていく上で最も大事なことの1つ。この仕事は大好きです」と言います。事業開始から約1年。近隣にある大学のボランティア団体が、日本語に不慣れなメンバーと一緒に店頭に立ってくれるなど地域連携も進んでいます。

「外国人というだけで、仕事を探すのが難しかった」というトマーソさん。マネージャー業は「やりがいがある」と笑顔です

(写真提供:NPO法人東京ソテリア ソテリアファーム)/サラダに使う野菜は、都内にある同法人の農場や福祉関係機関等から仕入れています

店舗運営から「多様性の包摂」が始まっている

当初はサラダがメインでしたが、多国籍の人々が集うというコンセプトを前面に押し出し、お弁当などのメニュー開発にも取り組んできたソテリアファーム。
「日本のみならず世界にまで視野を広げ、各国の福祉事業所で作った商品を輸入して扱うアンテナショップのような展開も検討しています。ほかに、デリバリーやキッチンカーなどを導入しイベント会場に出向くなど、お店のPRをもっとしていきたいですね」と塚本さんが言うと「今の現場ではまだ早い。店舗がコンパクトな分、メニューをシンプルにすることで、お店の特長を強く打ち出して売り上げを伸ばすべきだよ」とトマーソンさんが返します。
「こういう意見の相違もまた多様性。私たちが目指すのは、真にインクルーシブな社会。誰もが対等に仕事への意見を交わし合えるのも大事ですし、その結果として利益の出る魅力あるお店に育つのが理想ですね」(塚本さん)

トマーソさんは、調理からマネジメントまでこなすオールラウンダーです

ソテリアファームは「自立へのスタート地点」

ローダン・ロイドーさんは特別支援学校を卒業後、ソテリアファームに入りました。職場見学に来て「ここであれば、自分のペースで働けそうだ」と就職を決めたそうです。
今日のお弁当は、ローダンさんのルーツでもあるフィリピンを代表する家庭料理で、肉を酢などで漬け込んで焼いた「アドボ」がメイン。「アドボはお勧めですか?」とたずねると「食べる人の好み次第だからわからないよ」と言いながらも、笑顔を見せてくれました。職場の雰囲気は「日本語も英語も話せない仲間もいて、コミュニケーションが大変な時もあるよ。でもフレンドリーなトミー(トマーソさんの愛称)がまとめてくれる」とのこと。いつも早めに出勤し、仕事に備えるというローダンさん。「もうすぐ引っ越しをするんだよね」と塚本さんが水を向けると、ローダンさんは「ひとり暮らしが目標で、まずはグループホームにね」と答えます。そして「僕は苦労人だよ。でもここをきっかけにどんどん上に登っていくよ」と今後の目標を語ってくれました。

ローダンさんがこの日着ていたパーカーには、日本とフィリピンの国旗があしらわれていました

努力している人が社会参加できる国でありたい

働いているスタッフは、日本語が堪能な方ばかりではありません。
「店舗で使う言葉はとにかくシンプルに。また日本で働く限り、お客様のほとんどは日本のカルチャーで生きています。そのため『日本で求められる接客業の在り方』についての研修も行っています」(塚本さん)
現在は、精神以外の障害のある方も雇用しています。同事業所に勤務中で、聴覚に障害のあるスタッフは12歳で来日しました。当時のご本人にとって外国語であった日本語を、採用面接時には読唇術ができるほどまでに学習を積んでこられました。
「相当な努力をしてきた方なのに、働ける場がなかったという現状がとても悔しいです。一般求人にも、障害者手帳所有者向けの求人にも当てはまらず、日本の制度に乗れていない方もまだ多いはず。障害者認定を受けていなくても、どうぞ相談にいらしてください」(塚本さん)

 

(令和4年2月取材)

「お弁当いかがですか」と道行く人に呼びかけるローダンさん(右)とアラム・クルセットさん(左)

素材にこだわったオリーブオイルや就労支援施設で作ったグラノーラなども販売しています