事例紹介

事業者情報
株式会社アメディア(アメディア・ナビレク事業所)
所在地:東京都練馬区豊玉北1-12-3聖書キリスト教会東京教会2階アメディア室
業種:歩行用音声ナビゲーションマップの開発、『ナビ広場』を基軸とした歩行用ナビゲーション・システムの開発と運営
従業員数:15名
https://navirec.amedia.co.jp/navi-office-html/
移動や読書をサポートする自社開発のアプリやソフトで視覚障害者の世界を広げる!
視覚障害者の方が生活をする中で不自由を感じることが多いのは、 “読み書き”と“移動”だと言われています。株式会社アメディアは1989年に視覚障害者の自立生活をテクノロジーで支援する会社として設立されました。音声による文字の読み上げやモニターへの拡大表示で“読み書き”をサポートする機械『よむべえ』や、音声や振動の経路案内で“移動”をサポートするスマートフォン用アプリ『ナビレク・バリアフリーマップ(以下、ナビレク)』の開発を通じて、視覚障害者の方の自立と周囲の人々との交流の促進に取り組んでいます。自身も視覚障害者である代表取締役社長・望月優さんに、起業のきっかけやソーシャルファーム事業にかける想いなどをお伺いしました。「情報とテクノロジーの力で障害は大幅に改善できると考え、1989年に起業。視覚障害者の方向けに輸入した点字プリンターの販売を行っていました。当時はインターネットのナビなどはなく、さらに音声で案内を聞くというのは夢のような時代でした。営業でお客様のもとに伺う際は、事前に電話でご自宅への行き方を事細かく聞いて、それを点字に起こして持ち歩いていました。また“印刷物を読みたい”という視覚障害者の方々のニーズに応えるために1996年に音声・拡大読書ソフト『ヨメール』を自社開発しました。同様の機能を備えた商品が他社で約300万円で販売される中、当社の商品は18万円。商品そのものの性能に加え、ソフトをインストールするパソコンを新たに購入しても初期費用が抑えられる手軽さに期待が集まり、お披露目会には会場に入りきれないほどの方が来てくれました」。

ナビレク事業を本格的に軌道にのせるために、以前の経験を活かしながら就労に困難を抱える方を採用
同社は、2016年にスマートフォン用アプリ『ナビレク』のプロトタイプとなるシステムを開発。多くの支援者の協力を得ながらマップの数を増やし、目的地までのルートを音声でアナウンスするという製品の質を上げていったそうです。「当初はボランティアの方に実際に歩いてもらいながらルートの音声を録音していきました。しかし、歩きながら話すのが恥ずかしい…という意見が少なくなかったため、パソコンで音声つきの案内を作成できるようにナビレク用音声ガイド作成ソフトウェア『NaviEdit(ナビエディット)』を開発。そのマップデータは私たちが運営する地図サイト『ナビ広場』にアップされていて、スマホで利用できます。現在は全国4300以上の経路が掲載されています」と望月さんは教えてくれました。しかしマップが増えていくと、別の業務と兼務しながらナビレク関連の作業を行っていたスタッフの手が回らない状態に。そこで、事業を本格的に軌道にのせるため、新たに事業所を開設しナビレク部門を独立。2022年4月にソーシャルファームの認証を受けました。「実は、就労に困難を抱える方が、必要なサポートを受けつつ他の従業員とともに働くという働き方があることも、東京都のソーシャルファーム制度があることも知りませんでした。弊社は以前、視覚障害者だけでなく心の病気を患ってしまった方を受け入れていたことがあるため、その経験も活かせるのではないかと思いました。現在は4名の就労に困難を抱えている方を雇用しています。マップ制作や営業活動のアシスト業務、開発補佐、広報など、それぞれの適性に合った業務をお任せしています。みんなにはここで自分のペースで少しずつ、自分の理想に向かって進んでいってもらえればと思っています」。

視覚障害者の世界を広げるアプリの魅力を、多くの人に伝えたい
Tさんが同社で働き始めたのは、2022年4月のこと。それまでは、四ツ谷にある社会福祉法人 日本視覚障害者職能開発センター(以下、「センター」。)でパソコンの操作訓練などを受けていたそうです。「私は、見えづらいものを家族に読んでもらったり、スマホの画面を拡大して読んだりしていたので、センターに通うまでは読書器や電子ルーペといった福祉機器の存在を知りませんでした。他の方が知っていて私は知らないものがある一方、私は知っていても他の方が知らないものがあるはず。こういった格差を減らすために、世の中に情報を発信する仕事がしたいと思うようになりました。しかし、就職活動中は視覚障害者と知るとパソコンができないと思われてしまうこともあり、応募してもなかなか採用まで至らない状況でした。そのような中、センターで紹介されたことがきっかけで、アメディアを知りました。ナビレクにアップされていたルートを実際に試してみたのですが、その精度の高さにビックリ!視覚障害者の世界を広げることができるこのアプリの魅力を、より多くの方に伝えたいと思い応募しました」。

将来的にはイベントや講演会を、一人で任せてもらえるようになりたいです
現在はSNSの更新や広報を担当しているTさんですが、仕事のやりがいはどのようなところに感じているのでしょうか。「お客様とのつながりや商品の売れ行きが、自分の伝え方次第で変わる点ですね。もともとグローサリー雑貨を扱うお店で接客していたこともあり、人と接する仕事は大好き!先日は“見える方”に見えない世界を知ってもらうためのイベントを開催したのですが、私はアイマスクを付けての歩行体験を担当。前職での経験を活かしながらお客様と接したところ、たくさんの方が興味を持ってくれました。『料理を作るときはどうしてるの?』『目につけている眼鏡のようなものは何?』といった踏み込んだ質問も、理解しようとしてくれている気持ちが伝わってきて、とても嬉しかったです!将来的には展示会や学校での講演会などを、一人で任せてもらえるようになりたいですね。」とTさんは笑顔で教えてくれました。そんなTさんにとって、代表の望月さんはどのような存在なのでしょうか。「リーダーシップを発揮してメンバーを引っ張ってくれる、みんなのおじちゃん(笑)。えらそうなところが一切なく話しかけやすい望月さんがトップの会社なだけあり、職場の雰囲気は抜群です。最近は仲がいい以上に、チーム全体で成長できていることを実感しています」。

信頼関係を築くことで、悩みを“聞き出す”のではなく“言ってもいい相手”に
アメディア社は視覚障害者や高齢者が一人で通勤や通院をしたり、散歩に出かけることを手助けする“お散歩会”を、望月さんが理事長を務める『一般社団法人 音声ナビネット』の主催で、2ヶ月に1回開催しています。望月さんにとって、利用者の声を直接聞くことができる貴重な機会となっているそうです。「明治神宮に初詣に行ったり、川越にある目の病気にご利益があると云われる神社に行ったりと、季節や目的に合わせていろいろな場所に足を運んでいます。利用者と接することで、ナビレクが一人で出かけるきっかけづくりや、生活に楽しみをプラスする存在になっているのを肌で感じられるのが嬉しいです。目標は2030年までに、これさえあれば全国どこにでも行けるレベルまで、ナビレクを成長させること。そして、きちんと収益を出すこと。『可能性、決めているのは俺自身。一歩歩めばグンと広がる』──この自作の短歌を胸に、未来に向けて歩みを進めていきたいと思います」。社内の仲間たちとタッグを組んで、ナビレクをより良いものに育てている望月さんですが、就労に困難を抱えるスタッフとは、どのように向き合っているのでしょうか。「精神的な痛手から働けなくなってしまった方が、なぜそうなってしまったのかを知ろうと思ったときに、問題から目をそらすでもなく、立ち入りすぎるでもなく接したいと思います。だからこそ、抱えていることを”聞き出す”のではなく、“言ってもいい相手”として信頼されることを心掛けています。それは簡単ではありませんが、人として信頼してもらえるように頑張りながら、働きやすい環境をつくっていきたいですね」。
(令和5年9月取材)
