事例紹介

事業者情報

株式会社トップアート(リモデ事業部)

所在地:東京都世田谷区南烏山1-1-21 ルネ烏山1F
業種:リフォーム関連のショールームの運営
従業員数:10名
http://topart-repair.co.jp/

ソーシャルファームとしてリフォーム関連のショールームを新規立ち上げ

本社のある大阪では、住まいのリペアや建具・設計メンテナンス、飲食店・不動産などの幅広い事業を展開している株式会社トップアート。就労に困難を抱える方を“雇う”のではなく“イチから一緒に働く場所を創り上げたい”という想いのもと、2022年2月に世田谷区烏山にてリフォーム関連商品のショールーム(リモデ事業部)を立ち上げました。

リモデ事業部で活躍中の就労に困難を抱える方は3名。ソーシャルファームの運営は初めての試みのため、試行錯誤しながら運営しています。3名の方はショールームにご来店されたお客様の受付や接客、店内の清掃、事務関連の業務などを担当。社内研修を受けながら接客やパソコンのスキルアップに励んでいます。

 

新しいショールームの立ち上げメンバーのため、社員同士の壁はゼロ。何でも言い合える関係を築いている

働く意志がある人が働けない…そんな世の中を変えたかった

トップアートの代表である山下昌彦社長は、1993年に同社を設立。約30年にわたり大阪を中心に事業を展開してきました。そんな山下社長に、ソーシャルファームを始めたきっかけをお伺いしました。

「代表として会社を運営する中で印象に残っているのは、ある社員がてんかんを発症したことです。一部の社員からは“サポート方法がわからない”“事故が起こった際に責任がもてない”という声もあがりました。社員それぞれが背負っている責任があるため、誰も悪くはありません。会社のサポートや同僚の理解もありこの社員は仕事を続けることができましたが、周囲の理解がなければ、働きたくても職を失い、生活保護を受けていたかもしれない──。このことがきっかけで “働きたい意志がある人を、やさしく受け入れられる場所をつくりたい”と強く思うようになりました。そして2020年、東京都がソーシャルファームの認証制度をスタートするという情報を聞き、思い切って申請してみました」。

「みんなに“ここで働いてよかった”と思ってもらえる職場をつくりたいですね」と山下社長は語る

社員の中で “共通認識”をもつことで、働きやすい職場に!

これまで多くの従業員を雇用してきたトップアートですが、ソーシャルファームでの採用に関して今までと違うことはあったのでしょうか。「ソーシャルファームを始めて、今まで以上に“良い職場か判断するのは雇用されている側だ”と意識するようになりました。働いている人たちに“この職場を選んでよかった”と思ってもらえるように頑張りたいですね」と山下社長。さらに、就労に困難を抱える方が働きやすい職場をつくる上で、気をつけていることをお伺いしました。「急な勤務時間の変更やお休みがあっても、“それぞれの事情を理解する”という意識を社員全員の共通認識として持つようにしています。従業員の健康維持も大事なポイントなので、休憩室には体調が悪いときなどにいつでも休めるよう、ベッドを2つ用意しているんですよ」。

従業員の生活に寄り添えるよう、コミュニケーションを大事にしています

時間的な制約が大きく、働くことが叶わない日々

2022年2月、トップアートがショールームをオープンしたのと同時に働き始めた神谷麻里子さん。こちらに勤務する前は、どのような生活を送られていたのか伺いました。

「私には3人の子どもがいて、長男は障がいがあり、下の2人は現在大学生。家事が忙しいだけでなく、福祉施設に9時に出かけて15時に帰ってくる長男の見送りやお迎えも欠かせません。時間的な制約が大きいため普通に働きたくてもそれが叶わず、空いた時間に内職をしていたのですが収入は月1万円程度…という状態でした。しかし昨年9月、夫が新聞に折り込まれていた当社の求人募集チラシを発見!働き方に理解のある職場で、急なお休みにも対応していただけると知り、すぐに応募しました。」と神谷さんは教えてくれました。

「子どもの教育費などを自分の働きでサポートしたくても、なかなか実現できませんでした」と神谷さん

週3回、1日3.5時間勤務でも気分がまったく変わります

「バブル期に結婚、退職してからオフィスワークから遠ざかっていたので、パソコンのスキルはゼロからのスタート。ExcelやWordは社内研修を通じて身につけました。社員の方はみんな優しいですし、パソコンの使い方を教えてくれる大学生のアルバイトの方は、なんとうちの末っ子と同い年なんです。ずっと家にいたときは独り言が多かったのですが、働き始めて人間関係が広がり気持ちが充実しました!」とキラキラした笑顔で教えてくれた神谷さん。ソーシャルファームに期待していることを伺ってみました。「長男が通っている福祉園の保護者さんに、短時間でも職場で温かく受け入れてもらえていると伝えたら“そんな働き方があるんだ!”と驚いていました。ソーシャルファームという存在が世の中に広がって、就労に困難を抱える方が一人でも減るとうれしいなと思います」。

苦手意識があったパソコンも、「最近はExcelやWordの勉強をするのが楽しくなってきたんですよ」と神谷さんは語る

ソーシャルファームだからではなく、“当たり前”の働き方にしたい

トップアートのショールームの一角には、近隣にある千歳台福祉園と烏山福祉作業所の利用者の方がつくった陶器や革製品、コースター、ポケットティッシュケースなども展示されています。「地域の福祉施設とのつながりを強化することで、保護者をはじめとした地域住民の方にもソーシャルファームについて知っていただく機会になると考えました。同時に施設の利用者の方の作品を世の中に広める機会の創出にも、一役買っているんですよ」と語る山下社長の、夢はまだまだ大きく膨らんでいます。「就労に困難を抱える方を雇用するノウハウを構築し、現在運営しているソーシャルファームだけではなく、本社での採用にも活かして、世間に“当たり前の働き方”として広げていきたいです。そのためにも、就労の難しさをリアルに知る3人の従業員には、本音の意見をもっと聞かせてもらえるとうれしいですね」。

 

(令和4年11月取材)

近隣にある福祉施設とも連携