事例紹介

事業者情報

特定非営利活動法人発達障がい者を支援する会(シャイニーラボ)

所在地:東京都千代田区神田佐久間河岸46-3 UFビル5 4階
業種:AI・機械学習・データ分析やAIアルゴリズム考案などのデータサイエンス
従業員数:8名
https://shiny-lab.org/

ニーズの高い「データサイエンス」に特化。IT技術を有するメンバーで構成される

データサイエンス研究所「シャイニーラボ」は2022年7月に設立した事業所です。NPO法人「発達障がい者を支援する会」が母体となり、2020年10月に秋葉原で開所した「先端IT特化型就労移行支援事業所 チームシャイニー」の6名が当事業所で採用されています。

シャイニーラボが受注する「データサイエンス」とは、社会にあふれる膨大なデータをもとに「価値」を引き出す学問のこと。情報通信技術が進化し、ビジネス、医療や教育、行政などにおいて高度なデータ処理や分析を行い、課題解決法の提案までを行う「データサイエンティスト」の育成は国家レベルの急務とされていますが、ニーズは増加しているにも関わらずスキルを満たす人材が圧倒的に不足しているのが現状です。

「シャイニーラボで働いているのは、高度なIT技術を持ちながら、発達障がいがあることから一般社会にはうまく適合できない経験を持つメンバーたちです」と代表を務める吉見祐次さんは話します。

シャイニーラボ設立への想いを語る代表の吉見祐次さん

才能を眠らせているIT人材が本格的に活躍できる場所を作りたい

「発達障がいがある人の中には理数系に強く高度なIT人材になりうる人達が少なからず存在します。彼らのような人材を世界では“Gifted People(個性豊かで才能にあふれた人)”と呼び、それぞれが個性を活かし活躍できる場を提供しよう、という動きが広がっています。それに対してわが国ではその受け皿がほとんど存在せず、せっかくの才能が活かせず挫折するケースが多い。この問題を何とか出来ないものか、と考えていました」

データサイエンス技術に特化した学びを提供できる場として「チームシャイニー」を立ち上げ、次なる挑戦として立ち上げたのが「シャイニーラボ」でした。「一般企業では障がい者枠でIT技術職を募集することはほとんどありません。ならば、自分たちで実績を作ろう、実績を積み重ねながら、基礎的な解析技術を企業の業績にまでつなげる応用的技術に高めていけばいい、と考えたのです」

現在働く6名は全員、チームシャイニーの卒業生ですが、一般応募も随時受け付けます。「条件として、データサイエンスの基本的知識があることを設定しています。統計検定2級以上、AI技術のコンペティションサイトである“Kaggle”や“SIGNATE”などでの実績を評価します」

社内には多くの本が置かれており、実務だけでなく知識の蓄積にも最適な環境が用意されている

個性は尖らせる。仕事は「余裕だね」といえる量にとどめ、複数人で仕事を受け持つ

「シャイニーラボ」の勤務体系は、月~金の午前9時から午後5時まで。都内を中心に、神奈川県から通う人もいます。発達障がいという特性があるメンバー に対して吉見さんが心がけているのは、自由で伸びやかな環境作り。「発達障がいのある人は一般社会になじむ、ということが難しい。でも、それは重要な個性ととらえています。丸ではなく、へこんでいたりギザギザだったりする個性のうち、へこんでいる部分、つまり苦手な部分は他の人と補い合えばいい。ギザギザ、つまり秀でている部分はさらに尖らせて社会に出て行こう、得意分野で勝負していこうよ、といつも話しています」。

通常、スタートアップ企業などでは利益を出すために受注数を増やそうとしがちですが、「仕事を詰めすぎると精神的ストレスになるし体調不良にもつながるため、7割ぐらいにとどめています。『余裕だね』と言える程度の仕事量を維持するようにしています」

また、仕事はチーム制、あるいは最低でも2人以上で担当し、一人だけで抱えこまないよう配慮。「ふだんからよく話はしますが、定期的に面談を持ち、心配事や健康の状況を確認します。通勤電車で疲れてしまうときにはリモート作業もOKに。あらかじめ細かいルールは作らず、常に意見を求めてみんなで話し合い、決めることにしています」

チームで協力し合いながら、案件に取組んでいく土壌が形成されている

本人の自発性を尊重。チャイムを鳴らして休憩を促す

朝9時には朝礼を行い、その日に行うことを確認。週1回は「シャイニーラボミーティング」を行う他、不定期にミーティングを開き、全員で課題をクリアしています。「プログラミング、機械学習の実装、データの可視化など得意分野はそれぞれなので、本人のやりたいことを尊重したいと考えています。幸いなことに、『これ、誰がやる?』と投げかけると積極的に手を挙げてくれますね」

オフィススペースでは1時間あたり10分間の休憩ができるようチャイムが鳴ります。「真面目な人が多く、やりはじめると過度に集中してしまう場合があるんです。チャイムが鳴ると気持ちのリフレッシュになりますよね」

データサイエンスの資料がずらりと揃う本棚の前には、疲れたら気軽に横になれるスペースも。「祐次さん」と親しみを込めて呼ばれる吉見さんを囲んでメンバーたちが和気あいあいと立ち話をする風景は、まるで大学のゼミ室のようです。

案件の内容をチーム内で共有し最適解を議論する

「相手を思いやりながら交流できる。安心して働ける職場です」

2021年4月からチームシャイニーに通い始め、シャイニーラボ設立とともに勤務をはじめた松本典之さん。現在は、シャイニーラボが受注している案件のプロジェクト管理の仕事を担当しています。「ゼロから自分たちで体制作りをしていくのは、迷う部分もありますがやりがいも大きいですね。さまざまなデジタルツールを使いながら開発を行い、実績を積み上げていきたい。私の仕事としては、ミーティングの議事録を作って共有するなどして、チームの発想の刺激になるといいなと考えています」と松本さん。

かつては一般企業で勤務していたという松本さん。「ここでは相手の特性や立場を思いやって交流をする、という素地があり、とても安心して働ける場所だと思っています」。

シャイニーラボの雰囲気を語ってくださった松本さん

夢を取り戻し実現できる場にしてほしい。目指すはデーターサイエンティストのハブ(中心拠点)!

現在、シャイニーラボが手がけているのは、地方自治体と組んで仕事をしている企業の案件です。観光協会が保有する地域店舗の開店時間等の データをもとに、その町を訪れた人の一日体験ルート案を作り、地方活性化につなげるという最終目標を目指し、この日も会議が行われていました。

「まだ案件が少ないのが現状ですが、データサイエンスは付加価値の高い仕事ですから、今後受注が増えていけば、今よりもさらに良い待遇で社員を雇用できると考えています。もちろん、シャイニーラボで実践力を蓄えてステップアップしていくのも大賛成。現在のメンバーにも大学院を目指している人がいます。いろいろな場に飛び立ってほしいけれど、つながり続けてほしい。将来的には、シャイニーラボがデータサイエンティストという専門職のハブ(中心拠点)の一つになったら最高ですね」

シャイニーラボの「シャイニー」には「一人一人が社会で輝く」という思いが込められています。「ITに関する能力や向学心を持ちながら、社会に受け皿がないために挫折したりあきらめたりする人は潜在的にとても多いはずです。シャイニーラボを、夢を取り戻し実現する場にしていきたい。そして、彼らの才能を多くの人に知ってもらい、その才能が社会を牽引していく、そんな世界を実現したいです」と、吉見さんは力強く話します。

 

(令和4年10月取材)

社内では、代表の吉見祐次さんを「祐次さん」と呼ぶほど メンバー同士の距離も近く、非常に雰囲気の良い職場